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寄り添い、そしてエビデンス

エビデンス・ベースト・メディスン(根拠に基づく医療)は、最新の最良のエビデンスを用いて良心的に(conscientious)、明確に(explicit)、分別を持って(judicious) 行う医療です。(Sackettら、1996)エビデンス・ベースト・メディスンはこれまでの経験による医療に代わり推奨されています。これは、決して新しいものではなく9世紀半ばにすでに存在していました。

最良のエビデンス(根拠)は大規模調査研究、これまでの論文をまとめたシステマティックレビューとされています。これらを最新で最良のエビデンスとして実践する医療がエビデンス・ベースト・メディスンとされています。

しかし、産科医療は日本人に関する大規模調査やシステマティックレビューに必要な論文自体が多くありません。近年、多くの診療ガイドラインが作成されています。産科でも外国論文とこれまでの臨床経験を下にコンセンサスミーティングを経て、産科診療に関するガイドラインが作成されています。私たちも妊娠高血圧の診療ガイドライン作成に参加して参りました。

診療ガイドラインに基づく医療の実施は、診療の水準を向上させました。しかし、最近ではエビデンス・ベースト・メディスンが診療ガイドラインを用いる診療であるとの風潮があり、みんながやっているから大丈との安直な考えがそのこの根底にあるのではないでしょうか。

Sackettらはエビデンス・ベースト・メディスンの実践は個人の臨床的専門知識と系統的な研究から得られた外部の最良のエビデンスと統合により成り立っています。個人の臨床的専門知識とは、臨床医個々が臨床経験と実践を通して到達した熟練と判断力です。外部の優れたエビデンスであっても、個々の患者には適用できなかったり、不適切であったりすることがあります。臨床の専門知識がなければ、診療がエビデンスに支配されて、不適切な医療が行われてしまう危険性があります。優れた医師とは、個人の臨床的専門知識と最良のエビデンスの両方を用いる医師であると述べています。

高い専門性は個々の患者様の苦境、権利、嗜好をより慎重に把握し(寄り添い)、思いやりを持つことでより効果的で効率的な診断や治療を可能にします。

一方、最良のエビデンスは患者さんを中心とした診断、治療効果や安全性に関する臨床研究により獲得されます。ここにも患者様への寄り添いと思いやりが必要である事は言うまでもありません。

産科はエビデンスが決して多くありません。とくに、無作為化試験を行うことは容易ではありません。診療は経験値が中心になってきました。

私たちは患者を対象とした適切なクロスセクション研究や患者の適切な追跡調査、動物を用いた基礎研究によりエビデンスを作ってきました。(私たちのエビデンスをご参照下さい)

私たちは、患者様一人ひとりに寄り添い、エビデンスが少ないとされる産科診療であるからこそ、エビデンスに基づく診療を行い、安心安全のお産を提供したいと考えています。

開院4年目に入り、当院の診療を行う中で、いくつかの新たなエビデンスが明らかになってきました。それを随時、学会発表や論文発表しています。詳細はホームページ内の院内新聞や学会発表をご覧下さい。

参考文献
DAVID L SACKEIT et al. BMJ 1996